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小橋重信コラム『攻めの物流 守りの物流』(第3回)
小橋重信コラム「攻めの物流 守りの物流」(全6回)
- 第1回 「便利なだけの物流からの脱却」
- 第2回 「物流×テクノロジーの重要性」
- 第3回 「攻めの物流 守りの物流」(現在のページ)
- 第4回 「物流改善の進め方」
- 第5回 『物流の未来(前編)』
- 最終回 『物流の未来(後編)』
攻めの物流 守りの物流
物流コンサルタントの小橋です。
前回は物流×テクノロジーの重要性について時代の変遷とあわせてテクノロジーが物流に深く関わってきていることをお伝えいたしました。
「物流」を狭義に捉えると、倉庫の中で行われている商品の入荷から出荷までの一連の作業や、配送そのものを意味しますが、広義にとらえると商品が製造されてから消費者に届けるまでのサプライチェーンそのものになります。
そこには、需要予測も含め、在庫管理が深く関わってくることになり、無駄に商品を作りすぎないよう抑えることや、製造から販売、さらには返品など含めた商品サイクルをどうデザインするかなども含まれてきます。
そして、インターネットを使っての販売では、これまでの店舗だけでなく、自社サイトやAmazon、ZOZOと言った複数のチャネルをまたいで消費者のニーズに応え、届けるには、テクノロジーの理解が必要不可欠となります。
これからのファッション企業が生き残るには、「物流」を広義に捉え、テクノロジーを最大限に活用する必要があります。そこには、物流とテクノロジーの極めて深い相関関係があると考えています。
攻めのITと守りのIT
今回のテーマは「攻めの物流と守りの物流」ですが、ITにも「攻めのITと守りのIT」があることをご存知でしょうか。
日本は業務効率化やコストダウンとして「守りのIT」を中心に考え、海外では、製品・サービスの開発強化やビジネスモデル変革といった「攻めのIT」を強化しています。
経済産業省の「平成26年情報処理実態調査」でも、攻めのIT経営に取り組んでいる日本企業はおよそ2割しかなく、攻めのIT投資をしている米国と大きく異なります。
今後ビッグデータやIoTなど、ITの発展とともに企業の競争環境が大きく変化する中、IT活用への姿勢が企業の生死を分けるとまで言われています。
さらに、日本企業と海外企業におけるIT人材についても、自社にIT人材を抱えるよりITが外部から調達するものとして、IT企業に依頼する事が多いのも、日本と海外企業との違いです。言い換えれば、ITの重要性を経営層が理解しているかどうかを示しています。
同じようなことが、ITだけでなく物流でも起こっています。
物流における「攻めの物流と守りの物流」についても、「守り」とは、物流を経費だけで捉えて、コスト削減にだけフォーカスしている状況で、「攻め」とは物流を戦略的に捉え、工場とお客様をつなぎ、お客様の欲しいものが、欲しいタイミングで、欲しい場所で届け、物流そのものを付加価値として新たなビジネスモデルを構築することです。
ZARAの物流戦略
ファッション企業として売上NO1のインディテックスのZARAは、まさに物流をコストとして捉えるのではなく、物流を戦略的に考え、グローバル企業として安定成長を続けている企業です。
ZARAの特徴は、スピードにこだわった経営を行っております。安価な船便で商品をまとめて運ぶより、高価な空輸で週に2回、48時間以内に本社スペインから全世界の店舗に届けます。物流倉庫も各国に在庫保管用の倉庫はなく、スルー型で店舗に届けるように設計されています。
その速さは運ぶだけでなく、企画から生産までのスピードも通常のアパレル企業が6か月かけて作るものを4週間から早いもので2週間のスピード生産を行います。その早さに故に、シーズンの立ち上がりでは、全体の1/4しか生産されてなく、店舗での売れ行きをみて、追加生産を繰り返しています。
その結果、正価販売率が通常アパレルでは50%と言われるなかで、85%と高い数値となっており、セールなどの値下げも少なく、残在庫を少なく抑えることで、高い利益率を実現できています。
ZARAが物流・製造において学んだのは、実は日本のトヨタの生産方式です。トヨタの生産方式の一つにジャストインタイムの考え方があります。それは、必要なモノを必要な時に必要な量だけ生産する仕組みと考え方です。
後工程からの要求の変化に対し、ムダなく対応することで生産効率を高めることが目的としています。後工程とは、お客様と言い換えることができます。
そこにはZARAが実現しようとする世界において、物流はお客様のニーズをいち早くモノづくりに伝え、製造し、届けるための重要な戦略となっています。
物流≠コスト
物流をコストだけで捉えている経営者は多くないでしょうか。
ITと同じく効率化だけの守りの物流として考えていませんか?自分たちの商品を、新たなサービスや価値として攻めの物流の構築を考えていますか?
私が3PLの物流倉庫の営業として活動していた時も、ファッション企業の物流コンペでは、名ばかりのRFPをもとに、結果としては物流費のコスト比較で競うことが多かったです。物流会社として、いかに効率的にミスなく運用するかはとても重要なポイントですが、その企業が消費者であるお客様に対して、自分達の商品をどう届けたいのか?その時に物流はどうあるべきかについては、表面上の物流機能のスペックだけで推し量れるものではないと考えます。
先ほど、ZARAの話をしましたが、同じグローバル展開をしているユニクロとZARAでは、モノづくりからデリバリーの考え方も違うため、物流の戦略も異なってきます。ここでお伝えしたいのは、物流もITもお客様を喜ばせる重要な手段として、第三者に委ねるのではなく、自ら製造からデリバリーを戦略として考える必要があります。その上で、その戦略にあった物流会社を選ぶ、もしくは自社物流を構築すべきです。
以上のように、BtoBとBtoCとの物流の違いや、各システムと物流システムとの連携などが、オムニチャネルを複雑かつ、高コストにしている要因のひとつです。
今回は、このコラムのテーマである「攻めの物流 守りの物流」について書かせていただきました。次回はその物流戦略を考える上で重要な「物流改革と物流改善」のお話しをさせていただきます。
小橋重信コラム「攻めの物流 守りの物流」(全6回)
- 第1回 「便利なだけの物流からの脱却」
- 第2回 「物流×テクノロジーの重要性」
- 第3回 「攻めの物流 守りの物流」(現在のページ)
- 第4回 「物流改善の進め方」
- 第5回 『物流の未来(前編)』
- 最終回 『物流の未来(後編)』
株式会社リンクス 代表取締役 アパレル会社での在職中に上場から倒産までを経験、在庫が滞留することの怖さを知る。その後の物流会社にて多くの荷主の物流の導入から課題解決を進める。IT企業での実務経験も経て、ファッション業界を知り、物流会社の経験を活かした現場視点での課題解決。現在は「ファッション×IT×物流」の分野で物流コンサルとして活動中。 |