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テクノロジーで変わる物流とビジネスモデル
深刻化する日本の人手不足・人件費高騰
人口減少や高齢化などの社会現象、IT、AIなどのテクノロジーの進化により、物流業界も変革の時代に突入しました。高度経済成長期の大量生産・大量生産から、人口減少やEC市場の拡大により、多品種・少量生産の時代への変化は、店舗を起点とした小売業のビジネスモデルや物流に求められる機能・役割を再考する転換期となっています。
とりわけEC市場の拡大により、少ロット・多品種への物流オペレーション対応については、従来のオペレーションモデルでは、出荷量が増えれば増える程、人手が必要になるという、人手不足の解消が見込めない中で、物流業界にとっても、荷主側にとっても自社の収益に影響を及ぼす大きな課題となってきています。
また人手不足による影響は、人件費の高騰に留まらず、人手を確保するための採用広告費増、オペレーション教育の時間・経費増、シフト管理に関する時間増など、二次的・三次的に収益を圧迫する要因となっています。また、これまでの労働集約型のオペレーションでは、人件費の上昇率に生産性の向上率が追いついていない。ということも課題としてあります。
そして、人口減少に伴う就労人口の減少、人手不足は物流業界だけの課題ではなく、5年後外食業界では29万人、介護業界では34万人の人手が不足するという予測もあり、他業種との雇用確保が更に激化する見込みです。
更に昨今の働き方改革のなかで、副業の促進・広がりにより、個人の価値観やライフスタイルに合わせた、ギグワーキングという単発で仕事を請け負う働き方が急速に広がってきていることも、今後の物流業界にとって大きな課題になってくると思われます。
アルバイトや派遣という雇用形態が多い物流倉庫現場視点で考えると、人手の確保が更に難しくなる中、人手を確保したとしても、毎日違う人が出社してくる可能性が高くなるということが想定されます。つまり、物流倉庫の省人化・オペレーションの標準化により、生産性を飛躍的に向上させることが、避けては通れない喫緊の課題であり、それを解決するためのひとつの手段が、物流倉庫内のロボティクス化になります。
物流ロボットで省人化を実現し、人手不足問題を解決
EC物流におけるオペレーションにおいて、棚入れ・保管・ピッキング・梱包といった業務については、すでにコストパフォーマンスに優れ、生産性を飛躍的に向上させるロボティクスの導入が徐々に進みつつあります。
その代表例が、流通小売業ではアマゾン、ニトリやファーストリテイリング。物流業界では、佐川グローバルロジスティックスや日立物流といった大手の3PL企業です。またひとつの特徴として、これまでの自動倉庫やソーターといったマテハン機器は、日本製を導入・選択されるケースが圧倒的に多かったのですが、ロボティクスについては、欧米はじめ中国製が採用されるケースが増えています。とりわけ、中国製のロボット採用が顕著になっています。
中国のBtoC EC市場規模は2017年の時点で、日本円で約112兆円と巨大なマーケットとなっています。その中でもTmall(天猫)、JD.comといった大手のECプラットフォーム事業者は、物流のロボティクス化に対して積極投資を行っており、中国国内では飛躍的に物流倉庫のロボティクス化が進んでいます。
そういった環境下で、多くのロボットメーカーが品質向上だけでなく、システム改良・アップデートを猛烈なスピードで繰り返し、日本のユーザーでも十分活用、満足できるシステムへと進化を遂げています。
中国ロボットメーカー「ギークプラス」
なかでも2015年に北京で創業したギークプラス社は、ロボットメーカーというポジションでありながら、中国国内に7か所の自社物流センターを保有し、自社のロボットを活用した3PL業務も収益事業として行っています。
ロボットメーカー自ら3PL事業を行う事で、ユーザー視点の改良・アップデートを日々行う事を可能にしているのと同時に、社員700名のうち約半数が、システムエンジニアとして在籍し、AIを活用したアルゴリズムの設計やシステム全体の改良・構築を行っています。そういった人材も同社製品の飛躍的な進化を支えています。
日本の物流でロボティクス化が進まない理由とは
一方で、日本における物流倉庫のロボティクス化は飛躍的に進んでいるとは、まだ言い難い段階にあります。中国で飛躍的にロボティクス化が進んでいるのに対して、日本がなぜ進んでいないのか。
その理由のひとつに、日本と中国の『人』に対する文化・思想・能力の考え方が上げられます。中国は性善説と合わせて、性悪説の思想も根強くあり、そもそもロボットに代替できることは、人よりもロボットに任せた方が安心・確実という考え方があります。
日本は性善説に基づき、ロボットよりも人の方が安心・確実という考え方に違いがあるのと同時に、現場の創意工夫により、現場改善力・現場対応能力が高いということが上げられます。合わせて、ロボット導入の実績がまだ少ないため、ユーザーからロボットに対する信頼性を得られていないという面もあるのではないでしょうか。
ただし、先程も記述した通り、EC市場の拡大と人手不足という観点から、省人化・標準化、それによる生産性向上は、物流企業・荷主にとっても避けては通れない喫緊の課題です。 そこで大切なのは、物流を経営の『要』として捉え、どのように省人化・標準化・生産性向上を実現するのか。または経営戦略・営業戦略の中で、ロボットをどの様に活用していくのかという構想が鍵となります。ロボティクス化は、あくまで経営戦略・営業戦略を実現するための、ひとつの手段にすぎません。
それを踏まえた上で、ロボティクス化を検討することにより、自社の取るべき戦略・施策または課題がより明確になり、実現に向けた動きを加速することが可能になります。
今後の物流の姿
これまで人が労働集約的に行ってきた、物流オペレーション業務・作業については、段階を経てロボットや新たなテクノロジーに代替えが進み、生産性が飛躍的に向上することは間違いありません。
その様な環境の中で、人はロボットやテクノロジーを活用し、新しい価値を生み出す。付加価値の高いサービスのアイデア、構想を考え、実行していくことに、より注力できることになるでしょう。
小売・卸売・メーカーの自社物流で、ロボティクス化を計画している企業のなかには、自社の省人化・標準化・生産性向上を目的としたものに留まらず、そこで得られるノウハウ・アドバンテージを活用し、EC市場の成長、人手不足をチャンスとして捉え、物流を新規事業として経営戦略に盛り込む企業も増えています。異業種からの参入が増えることで、物流業界も更に進化を遂げていくと思われます。
物流が果たす社会的役割とSDGs
またSDGsの観点からも物流が果たす社会的役割は、今後ますます大きくなると思われます。例えば、アパレル業界のなかには、大量生産により製造の半数が売れ残り結果的に過剰在庫、値引き販売、廃棄による収益の悪化の課題があります。背景としてファストファッションの台頭により、1社で一定数量を発注しないと東南アジアの現地工場が注文を受けてくれない。需要よりも生産数を基準に生産計画が立てられているということがあります。
この課題を解消するために、物流企業がアパレル企業複数社の製造を取りまとめて、一定数量をまとめて工場に発注をすることで、生産数ではなく需要を基準に生産することが可能になります。
このように物流が製造を担う、または商社的機能を果たす事で、アパレル業界にとっても過剰生産による収益の圧迫を避けるだけに留まらず、SDGsの観点からも持続可能な消費と生産のパターンを確保することが可能になってきます。これまでの物流業務の概念を超えて、物流製造業・物流商社という新しい業態により、新たな価値提供が生み出される日も近いのではないでしょうか。
物流を経営の『要』と捉えて、これからの社会変化とテクノロジーを、自社の経営戦略にどう活用していくか。この構想力と実行力が社会・業界・顧客・自社の成長の礎となるとともに、物流業界が経済をリードする産業へと更に飛躍・発展する鍵になるものと確信しています。