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国土交通省 ロングインタビュー (第2回)
国土交通省 総合政策局 物流政策課 物流産業室 流通業務総合効率化事業推進官 神澤 直子氏インタビュー(第2回)
日本の物流政策として、「総合物流施策大綱」に沿って、国の経済成長と国民生活を持続的に支える「強い物流」を目指しています。今回は、とりわけ倉庫業や貨物利用運送業等トラック業界をはじめとする女性の活躍促進等、物流業界の活性化に取り組まれている国土交通省 物流政策課の神澤直子さんにお話を伺いました。
前回までのインタビューはこちら(第1回)
― トラック分野に足を踏み入れ、「トラガール促進プロジェクト」というのをされていると思いますが、業界の活性化などを目的として始められたプロジェクトなのでしょうか?
トラック業界を担当するようになったのは、今から約5 年前ですが、その頃からトラックドライバーの不足というのがだんだんと顕在化してきて、お歳暮やお中元などの繁忙期にトラックが足りないという声が、チラホラと出てきていました。
そこで、「トラックドライバー不足問題への対策を考える」というのが、私がトラック行政を担当することになった時の使命でした。トラックドライバーをどうやって増やしたらいいのだろうか、あるいは、増やす以外に何をすれば良いのか分からなくて、そもそも業界のこともよく分からなかったので、ヒントをもらおうと思って色んな事業者の方のお話をうかがいました。そこでお会いする事業者の方は、ほぼ間違いなく男性で、訪問させてもらったいずれの事業所で女性ドライバーを見かけることは皆無でした。
元々男社会というイメージがだいぶ強い業界だと思うのですが、あまりにも男性社会であることに、凄い違和感を持ちました。 ちょうど政府全体としても、女性の活躍推進というのが政権の一丁目一番地の課題にもなっていて、それに歩調を合わせるような形で、トラックドライバーにおける女性の活躍も、もっと促したいなと思いました。
女性が働きやすい職種って、女性だけにとってだけではなくて、本当は男性にとっても働きやすい職場になると思います。特に今の若年層の仕事の選び方は、単にお給料が多く貰えるというのではなくて、休みがきちんと取れるとか、長時間の労働ではないとか、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。
それが良いか悪いかという話はさておき、どうしても女性の方が育児や家事などの時間的制約が多い中で働かなきゃいけないという人が多いと思うのですが、そういう女性でも働けるようなトラックドライバーという職種に変えていくことで、若年層も入ってくるし、若い男性も入ってくるし、あるいは高齢の方でも働きやすいような環境がつくれるのだろうと思いました。女性が業界にもっと入ってくるということをきっかけに、トラックドライバーの働き方を少しずつ変えていくことができるのではないかという想いから「トラガールプロジェクト」と銘打ちながら取り組みを進めました。
トラガールプロジェクトをやるために、女性ドライバーが実際に活躍している事業者を全国まわらせていただいて直接ドライバーの方や経営者の方とお話する機会を多く頂きました。
女性ドライバーを雇用したことのない経営者の方からは、「そもそも女性が大型トラック運転するなんて技能も低いしダメだろう」とか、「重いもの持てないから女性は難しい」みたいな女性に対する否定的な意見を少なからず聞いていましたが、実際雇用している経営者の方に聞いてみると、「女性がいることで、取引先からとても高い評価をもらっている」とか、「女性ドライバーはコミュニケーションも積極的にとってくれるし、雰囲気も柔らかくなるし、物の扱いもひとつひとつ丁寧にしてくれるので凄く良いよ」といった話をたくさんお聞きしました。それを聞いて、トラガールプロジェクトの方向性は間違っていないのかなと少し自信となり、女性が活躍できるような環境づくりをもっと業界に水平展開したいなと思って取り組んできました。
人手不足問題について
― 物流業界の人手不足問題は深刻な状況にあると感じていますが、この問題に関するお考えや、国での取り組みなど教えていただけますか。
人手不足を原因として倒産した事業者の件数というのは、直近の統計だとトラック業界が1位になっています。仕事があるのに人手が足りなくて、廃業せざるを得ないという会社が増えてきているなかで、国として、あるいは事業者としてどんな取り組みをしていく必要があるのか。突き詰めて考えていくと、方向性は2 つにしぼられると考えています。
ひとつは、人手不足を“人”でどう補うか。もうひとつは、人ではない別の形でどう“代替”するか、ということだと考えています。
後者の“代替”ということに関して言えば、やはり機械化・自動化・省力化をいかに進めていくかということが最大のポイントだろうと思います。機械化、自動化を進めるという考えについては、総論賛成で、反対もない話だと思うのですが、個々の事業者で実際に導入しようという段階に至ると、実はあまり進まないのが現状です。その要因を分析すると、貨物の標準化が進んでいないことや、カスタマイズされ過ぎているという日本特有の商習慣に大きく関係すると考えています。
また、そもそも自動化することに対する物流事業者側の意識、あるいは荷主側の意識が十分に醸成されていないとことも一因です。いったい機械がどれだけ人手不足を補うのか、費用対効果がどれくらいあるのか、メンテナンスにどれだけコストがかかるのか、など色んな疑問があって投資が進まない。こうした現状に何らかの対応をしていく必要があると考えています。
もう一つが人手不足を“人”で補うという話、つまり今働いている人以外に、どうやって裾野を広げていくのかという論点です。今、物流業界で働いている人の多くが中高年の男性です。
これはトラックドライバーだけでなく庫内作業員も同じで、もっと女性の働く余地というのはいっぱいあると思っています。トラガールの話と同じで倉庫内で女性が働きやすい環境を作ることで、女性のみならず、シニアの方でも物流施設で働けるような、人の裾野を広げていく取り組みが求められていると思っています。
―人手不足の解決方法の一つとして、共同配送、協働が挙げられるかと思いますが、共同配送、協働を始めるにはどのような取り組みが必要だと感じていますか? また実例など教えていただけますか。
まず荷主側で「共同配送のメリット」をよくご理解いただく必要があると思っています。最近は、経営者層でも、物流については同業他社のライバル関係で競うのではなくて、共同でという考え方が浸透しつつあるものの、実際に共同配送を実現している企業は少数で、大部分の事業者は同業他社と物流も含めて競っている状態です。そうした事業者の意識転換を図って、物流を共同化していくメリットやその必要性を広く浸透させていく必要があると思っています。
共同配送というカテゴリーでも、色んなバリエーションがありうると思います。そういった事例を広く紹介していく中で、横展開をしっかり図っていきたいと考えています。 例えば、BtoB のみならずBtoC で共同輸配送を実現している例として、藤沢SSTの取り組みがあります。ここでは、域内に配達される宅配貨物について、他の事業者の分もヤマト運輸さんがまとめて輸配送しています。
その他にも、商業施設の館内物流を一元的に管理する、館内物流の共同化というビジネスが生まれつつあって、例えばスカイツリーとか、日比谷のミッドタウンは一元的に佐川急便さんが管理しています。商業施設の周辺は時間帯によっては物凄いトラックが並んでいて、それが渋滞の原因になっていました。また商業施設の中で見てみても、貨物エレベーターが1 台しかなくて、長時間待っているという事があって、1社で一元的に管理することにより、そこも解決できるという意味では、この館内物流というのは面白いし、もっと横展開したいと思っています。
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今後の物流業界の働き方がどのように変化していくのか、IoTやAIなどのテクノロジーによる物流業務の変化などについてお話いただいております。
続き(第3回)はこちらから
国土交通省 総合政策局 物流政策課 物流産業室 神澤 直子 氏プロフィール 大学卒業後、国土交通省に入省。国際航空分野で各国との航空交渉に携わった後、トラック業界をはじめとする自動車業界における女性の活躍促進等に取り組む。 その後、不動産に関わる税制担当として多種多様な業種の方と関わる機会を頂いた後、2017年より、現職にて倉庫業や貨物利用運送業等を担当。 |
インタビュー・構成:物流倉庫プランナーズスタッフ