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物流は荷主企業の経営の”要”なのか?~”ウィズコロナ”時代の物流/F-LINEに学ぶ物流戦略~
L-Tech Lab(エルテックラボ)代表 1982年、名古屋大学経済学部卒業。83年株式会社流通研究社入社、90年より月刊「マテリアルフロー」編集長、2017年より代表取締役社長。2012年より「アジア・シームレス物流フォーラム」企画・実行統括。06年より東京都中央・城北職業能力開発センター赤羽校「物流の基礎」講師、近年は大学・企業・団体・イベント他の講演に奔走。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える―メーカー・卸売業・小売業・物流業 18社のケース」(白桃書房、共著)、「物流センターシステム事例集Ⅰ~Ⅵ」(流通研究社)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(社会保健研究所、11年改訂版、共著)など。2017年より大田花き株式会社 社外取締役(現任)。2020年5月に流通研究社を退職。6月1日に独立し、L-Tech Lab(エルテックラボ、物流テック研究室)代表として活動を開始。 |
コロナ禍まっただ中、物流に感謝!
新型コロナウィルスの地球規模の蔓延で、年初からわずか3か月にして、人間世界は変貌してしまいした。でも医療・介護、生活必需品関連企業の従事者、公共サービス・交通機関の関係者などなど、エッセンシャルワーカーの献身的な働きは、巣ごもりに追いやられた私たちの命と生活を守ってくれました。そして忘れてならないのが、医療や生活の必需品をこの災禍の中、運び続けてくれた物流関係者の皆さんです。
昨年までに、相次ぐ大災害と「物流クライシス」のなか、ようやく「物流が止まったら、大変だよね!」と、産業界の見方が変化。華々しい製造や営業のはざまで「永遠の裏方」であり続けてきた物流が、文字通りの「ライフライン」だと認知されるようになりました。
そこへ来てコロナ対策で、国民に「外出自粛」という異例のチャレンジが課され、EC需要が急拡大。顧客宅へのラストマイル配送を担う人々には一時、感染源ではと忌避する失礼な見方もあったようですが、宅配ドライバーこそ、逆に私たちからの感染リスクを背負って届け続けてくれている大恩人。心から感謝したいと思います。
ただし、こうした一般の目に留まりやすいB2C物流に対し、その前工程にははるかにすそ野の広い、長距離幹線輸送ほかのB2B物流があることにも、留意しないといけません。
物流とサプライチェーン・ロジスティクス
そう、物流にも実は消費者の視点からは見えない、海面下の氷山のような巨大な層があるのです。ごく単純化して言うと……
- 資源、原材料を加工メーカーまで運ぶ1次調達物流(B2B)
- 加工品をサプライヤから製品メーカーに運ぶ2次調達物流(B2B)
…ここまでを生産物流とも言います。 - メーカーから卸業への製品の輸配送(B2B)
- 卸から小売店に至る輸配送(B2B)
- 消費者宅へのラストマイル配送(B2C)
…この流通過程の輸配送は販売物流とも言います(廃棄⇒静脈物流に続く)。
以上、一連のプロセスを上流起点で「供給の連鎖」とみたのが、「サプライチェーン」という概念です。サプライチェーンはリアルな「物流」のほか、受発注ほかの「情報流」、売買契約などの「商流」、お金の流れである「金流」で構成されると言われます(下流からさかのぼる注文・要望などは逆の流れになり、「デマンドチェーン」とも)。また、これを「価値の連鎖」視点からとらえ直すと、「バリューチェーン」になります。
ところで、サプライチェーンを構成する「物の流れ」に着目したとき、2つの層に分けてみないと、誤解が起こりがち。それが「ロジスティクス」と「物流」です。
一般にロジスティクスは、調達、生産、流通のサプライチェーン過程において、
- 適切なモノを(Right product)
- 適切な場所へ(Right place)
- 適切な時間に(Right time)
- 適切な条件で(Right condition)
- 適切なコストで(Right cost)
供給すること、と定義され、これを「5R」と呼んでいます。
これらすべてを実現するには、周到な戦略と計画・管理、戦術と実行が必要です。戦闘の死命を決する物資供給を担う「兵站」が、ロジスティクスの原義であることはご存じでしょう。そして指揮官、ロジスティクスオフィサーが決めたロジスティクス戦略と計画・管理(ストラテジー/プランニング/マネジメント)に基づいて、リアルな物資供給の実行面(オペレーション)を担うのが、物流です。JISで物流は「輸送・保管・荷役・包装・流通加工・情報処理」の6つの機能から構成される、と定義されています。
物流を持続可能に―F-LINEの挑戦
その物流が、ドライバーほかの人手不足で「もはや運べなくなってしまうかも知れない」という危機を迎えていたのです。労働人口減少に、高齢化等による退職と低賃金・長時間労働からの成り手不足が加わり、数年後にはドライバーが20数万人不足するとの調査が出ました。政府もこれを重視し、物流をブラック環境から救出する「ホワイト物流推進運動」を昨年から開始。運賃適正化や労働環境改善への対応を荷主業界へ要請しています。
しかしそれ以前に、深刻化する「運べなくなる危機」への応戦を開始した事例がいくつかあります。中でも加工食品業界では、特有の商慣行や物流特性から、他と比較しても「嫌われる荷主」となっていた。「いま何とかしなければ、本当に商品が運べなくなる(=ビジネスが崩壊する)」と危機感を募らせた味の素、カゴメ他6社の業界リーダーたちが集って議論を重ね、「物流を持続可能にするために」、各社の物流子会社を1社に統合することを決めました。「競争は商品で、物流は共同で」を基本理念とするF-LINE㈱の誕生です。
同社は既に各地での物流共同化や納品伝票の統一化などで重複業務削減の効率化効果を挙げ、ドライバーの待機時間や付帯作業削減など、「物流ホワイト化」への労働環境是正も推進中。そうしなければ、もはや企業として存続できない……生き残りの絶対条件の1つが、この物流統合・大改革だったのです。
”ウィズコロナ”時代も物流は戦略的経営マター
しかも現在のコロナ禍によって、輸送機械など一時的にサプライチェーンが途絶えたり、物流需給が緩んだ業界はあるものの、食品・日用品など必需品の業界やEC分野では逆に需給がひっ迫。ところが感染予防のため、物流現場作業者に今まで通りの「三密」状態で働いてもらうわけにいかない。そこで”ウィズコロナ”時代に対応した一層の自動化・省力化・デジタル化(DX:デジタルトランスフォーメーション)が喫緊テーマに浮上しています。テクノロジーの活用なしには、やはり物流は持続不可能に陥る危険性があるのです。
共同化・標準化・デジタル化による物流の効率化はそのまま、車両や手間・時間の削減=エネルギーと排出CO2削減につながります。近年、企業の社会的責任の履行が投資家や市民社会から厳しく求められるなか、物流・ロジスティクスの改革は「働き方改革」、地球の持続可能性を追求する「SDGs」、環境・社会・ガバナンスを重視する「ESG経営」の実践にも直結するのです。まさに戦略的経営マターだと言っていい。
だから「物流は、荷主企業の経営戦略の”要”となる!」。タイトルに自ら立てた問いに対し、筆者は確信をもってこう結論し、答えたいと思います。